小児用医薬品の開発が遅れる理由のひとつに、小児治験の困難さが挙げられる。成人治験と比べると、小児治験の経験をもつ医療機関や医師は少ない。また、保護者と子ども双方の同意を得る必要があり、被験者の獲得にも時間を要する。一般的に治験参加へのハードルが高い小児治験に参加した親子2組に、参加の動機や感想などを聞いた。


安全性、被験者日誌、採血など。
参加する前に抱いた不安とは。


治験に参加したきっかけを教えてください。

Sくん母:SNSで「子ども用の花粉症新薬モニター募集」という広告を見たことがきっかけです。息子が初めて花粉症を発症したのは、幼稚園の年中さんのときでした。目だけでなく顔まで腫れてしまって、慌ててお医者さんに診ていただいたら、花粉症と診断されました。以来、毎年お薬を出していただいているんですが、3種類を1日3回のまなくてはいけないので、なかなか手がかかるんですね。しかも、症状が完全になくなるわけではなく……。もっと良いお薬があれば良いな、と思っていたので、「新薬」という言葉に惹かれました。

Mちゃん母:私もSNSの広告がきっかけです。ただ、私の目を引いたのは「無料のアレルギー検査」という言葉だったと思います。うちの娘は春ごろによくくしゃみをするのですが、アレルギー検査をしたことがなかったので、毎回「風邪かな?花粉症かな?」と迷うんです。無料の検査で花粉症かどうか分かるなら、良い機会かなと思って。その後、小児用花粉症治療薬の治験に参加できる可能性もあると知り、条件が合うなら検討しようと考えました。


治験開始前に抱いていた不安について教えてください。

Sくん母:新薬に惹かれたものの、新薬だからこそ、試して大丈夫だろうか……という不安はありました。しかも、試すのは私自身ではなく子どもですから、なおさら不安が膨らみます。最終的に参加することに決めた理由は、成人用だけでなく、12歳以上の未成年用でも既に承認が下りている医薬品だと聞いたからです。うちの子は体格も大きい方ですし、それなら大丈夫かなと考えました。

Mちゃん母:新薬を試すことに不安がなかったわけではありませんが、12歳~成人用の医薬品として既に承認が下りている薬ということでしたので、私はそこまで心配しませんでした。このほか、何回か採血があることや、休日に通院しなければならないことなども、事前に詳しく説明していただいたので覚悟ができました。大きな不安といえば、治験期間中に私自身が日誌をつけ忘れるのではないかということぐらい。それも、日誌をつけるタブレットのアラーム機能のおかげで、何とか忘れずに記録ができました。



苦労したのは、「採血」よりも「絶食」?
プラセボ服用で症状が緩和されない場合も。


初めて来院したときのことを教えてください。

Sくん母:来院する前、息子は「何するの?」「痛いことする?」と、そわそわしていました。待合室では平気そうな顔をしていましたが、内心不安だったと思います。いつもしていることではありますが、順番が来たら診察室に同行して、そばにいるようにしました。でも、先生も看護師さんも、本当に優しく丁寧に接してくださって。おかげさまで怖くなかったみたいです。2回目以降の診察では、「お母さん、待合室で待ってていいよ」って、一人で診察室に入っていきました。

Sくん:看護師さんが優しくて、注射〈編集部注:採血の注射針。以下同〉が全然痛くなかった。先生も全然怖くなくて、この病院なら大丈夫だと思った。

Mちゃん母:初めて来院したときは、血液検査を受けるため、娘は絶食していました。早起きをしたうえ、空腹を抱えていたので、かなりご機嫌ななめでした(笑)。表情もぼんやりしていたので、本人はあまり記憶がないかもしれません。血液検査では、採血に少し時間がかかった様子でした。娘は血管が細いので、どの病院でも苦戦されるんです。こちらの病院では、看護師さんが娘のペースに合わせて、急がず優しくご対応くださったことが印象に残っています。

Mちゃん:注射は怖くなかった。でも、お腹が減っていてあまり覚えていないかも。検査の後、お母さんがレストランに連れて行ってくれた!


治験期間中、苦労したことや困ったことを教えてください。

Sくん母:本人としては、絶食が一番つらかったそうです。一度だけ、朝食を食べずに来院する日がありまして、そのときは1週間前から憂鬱だとこぼしていました。当日は駅前でパンを買ってから来院したのですが、診察を終えて病院を出るなり「パン食べる!」と言って、その場でもりもり食べていました。

Sくん:絶食が一番イヤだった!注射よりイヤ。お腹が減りすぎた。

Mちゃん母:困ったことといえば、治験薬がプラセボだったのか、症状が改善されなかったことです。しかも、今年から花粉症が悪化したようで、治験期間中は目と鼻のかゆみがひどくて……。プラセボに当たるかもしれないことは、事前に知っていたことではありますが、症状で苦労する娘を見るのは、私もなかなかつらかったです。

Mちゃん:鼻がムズムズして、すごくくしゃみが出た。目もかゆかった。



印象に残っているのは、スタッフの丁寧な対応。
次の機会があれば、親子で話し合って考えたい。


治験に参加した感想を教えてください。

Sくん母:治験期間中は、薬の効果で花粉症の症状がほとんどなくなったので、本人はとても喜んでいました。「これからもこの薬がいい」と言っています。いつもは1日3回3種類のお薬を服用しているので、1日1回1種類の服用で効果が高いとなると、そう言うのも頷けますね。優しい先生や看護師さんのおかげで、最後まで機嫌良く通院することができ、ほっとしています。治験期間中は、息子へのご褒美と称して、来院するたびに一緒に本屋さんに寄ったり、スイーツを食べたりしていました。私としても、週1回息子と新大阪に来るのは楽しかったです。

Sくん:薬で症状がかなり治まった。春はいつもしんどいけど、楽に過ごせる時間が長くなってうれしかった。通院の日は友だちと遊べないのが困るけど、良い薬がもらえるからOKと思えた。

Mちゃん母:治験に参加することで、医薬品の開発には10年もの年月がかかることや、たくさんの被験者がそれに関わっていることなどを知ることができました。新しい世界を知り、いろいろなことを学べたことが、私にとっての一番の収穫です。今回の治験薬は、娘にはあまり効果が見られず、彼女には苦労をかけたかもしれません。でも、人の役に立つ貴重な経験ができたことが、本人にとって何かの糧になればと願っています。最初はけだるげに参加していた娘も、後半は使命感が出てきたのか、自分からサッと動いて通院するようになりました。それも、先生や看護師さんが丁寧に娘と向き合ってくださったからだと思います。

Mちゃん:一番うれしかったのは、病院にガチャガチャがあったこと。注射の後は看護師さんがコインをくれて、ガチャガチャを回させてくれた。あと、診察の後にお母さんと一緒にパン屋さんとかに行くのも楽しかった。


今後、治験に参加したいと思いますか。

Sくん母:私に条件が合う治験があれば、ぜひ参加してみたいです。息子の治験に関しては、内容を確認したうえで検討したいと思います。ただ、本人は前向きに考えるかもしれません。と言うのも、大阪治験病院さんにお世話になってから、「病院に行くなら大阪治験病院がいい」と言うようになりまして……。それはちょっと困るんですが(笑)、こちらで実施される治験なら、参加したいと思うかもしれないです。

Sくん:大阪治験病院は、注射も診察も痛くないようにしてくれる。落ち着くし、毎年来てもいい。

Mちゃん母:私にできることがあるなら協力させていただきたいです。インクロムさんからメールで治験のお知らせが届くようになったので、「参加できそうな試験はあるかな」と思いながら募集情報を見ています。小児治験は、娘がやりたいと言うなら考えます。今回、楽しいこともめんどうなこともある治験を、本人が体験して知ることができました。参加するかどうか、自分で判断しやすくなったはず。次の機会があるなら、まずは本人に聞いてみます。

Mちゃん:また参加したいかどうかは、今は分からないけど、参加することがあるなら、そのとき考えたい。

(公開日:2025年 5月 20日)